北海道

第4章 計画の主要施策

第1節 グローバルな競争力ある自立的安定経済の実現

1.食料供給力の強化と食にかかわる産業の高付加価値化・競争力強化

 世界人口の増加、東アジア地域の経済発展等により、今後、世界の食料需要が大幅に増加すると見込まれる。また、食料供給面では、水資源の開発余地の減少、塩害や砂漠化、さらには地球温暖化による影響等の不安定要因が存在することから、今後、世界の食料需給が逼迫する可能性がある。
 このような中、我が国の食料自給率は、主要先進国の中で最も低い水準となっている。さらに、農水産業従事者の減少や高齢化等による労働力の脆弱化、耕作放棄地の増加、水産資源の減少等の影響により国内の食料供給力の低下が懸念されている。
 このため、食料安全保障の観点から、食料自給率の向上に向けて国内農水産物の消費拡大を促進しつつ、食料供給力の強化を図ることが必要であり、最大の食料供給力を有している北海道の農水産業が果たす役割は、今後一層重要性を増すこととなる。
 一方、食の安全や高品質な農水産物に対する国内及び東アジア地域を中心とする国外の需要が拡大している。
 このため、生産・加工・流通等の食にかかわる産業において、食品の安全を確保した上で、高付加価値化を図り、海外の農水産物や食品にも対抗し得るように競争力を強化し、あわせて、輸出促進を図ることが重要である。
 
(1) 食料供給力の強化
 
(農産物の供給力強化)
 良好な営農条件を備えた農地・農業用水の確保を図りつつ更なる生産性の向上に努めるとともに、持続的・効率的な農業経営の確立を進めることにより、農産物の供給力を一層強化することが必要である。
 このため、安定的な作物生産を可能とする農業水利施設等の計画的な更新整備、暗渠排水や土層改良等のほ場整備及び低コストな農業生産を可能とするほ場の大区画化や、担い手への農地の利用集積等を推進する。
 特に、水田地帯においては、水管理の省力化を可能とする施設整備等を推進する。畑地帯においては、作物の品質や収量の向上に資する畑地かんがいや排水改良等を推進する。酪農地帯においては、草地・飼料畑の整備等を推進するとともに、コントラクター(注4)やTMRセンター(注5)等経営支援組織の育成・強化を促進する。
 加えて、直播に向いた水稲品種や耐冷性・耐病性・収益性が高い品種の開発、低コストな生産技術及び未利用有機性資源の飼料化技術の開発等を促進する。
 また、地域農業の維持・発展につながる法人化等の効率的な経営体の育成・確保及び多様な人材の円滑な新規就農を促進する。
 さらに、施設野菜・園芸や肉牛の導入等による経営の複合化及び農家等による農産物加工・直売や農家民宿、農家レストラン等の起業による経営の多角化へ向けた取組等を促進する。
 
(水産物の供給力強化)
 漁場環境が悪化傾向にある北海道周辺水域の資源生産力の向上を図り、消費者に対し鮮度が良く安全な水産物を安定的に供給するとともに、資源状況に見合った持続可能な漁業生産構造を確立することにより、水産物の供給力を強化することが必要である。
 このため、TAC(漁獲可能量)制度(注6)やTAE(漁獲努力可能量)制度(注7)の適切な運用や漁業者自らによる漁獲規制による資源の回復・管理及び種苗放流等による栽培漁業の取組、産卵・生育環境となる藻場・干潟等の漁場の整備を促進する。
 また、漁港における水産物の衛生管理の高度化等を推進するとともに、産地市場の統廃合や市場機能の強化を促進する。
 さらに、省エネ・省人型の代船取得や低コストの操業・生産体制等による漁船漁業の構造改革及び収入の変動による影響を緩和する経営安定対策への取組を促進する。
 
(2) 食の安全の確保
 安全な農水産物の生産や、農水産物・加工食品の品質管理の高度化等を通じ、生産段階から食卓まで一貫した食の安全を確保することが重要である。
 このため、農業生産や食品加工の現場段階において、GAP(農業生産工程管理手法)(注8)やHACCP(危害分析・重要管理点方式)(注9)の導入及び流通段階における衛生管理施設の整備等、食品の安全確保へ向けた取組を促進する。
 
(3) 食にかかわる産業の高付加価値化・競争力強化
 農水産物・加工食品の品質向上のための生産・加工技術の開発等、食にかかわる産業の各段階で高付加価値化を進めるとともに、コスト縮減、消費者ニーズに適合した食品の供給、消費者への訴求力の強化等に取り組むことにより、海外市場も視野に入れて競争力を強化することが必要である。
 このため、生産段階において、冷涼な気候を活かして農薬の使用量を抑え、家畜排せつ物等の有機性資源を活用した有機農業を始めとする環境保全型農業の取組や、食味向上のための品種改良や新技術の開発等を促進する。
 流通・加工段階においても、電子タグ等を活用した出荷・物流システムの導入、産地直送など多様な流通経路の構築、マーケティングによる消費者ニーズの把握及びこれらを踏まえた新技術の活用等による多様な食品の開発・普及の取組を促進する。
 また、地域のイメージとの関連付けによる相乗効果の発現や北海道ならではの農水産物の利用等による新たな食のブランドの確立へ向けた取組とともに、地域産業の活性化につながる地産地消の推進等、消費者と生産者等の結びつきの強化に向けた取組を促進する。
 さらに、東アジア地域等への農水産物・加工食品の輸出促進へ向け、情報の収集及び発信、海外市場開拓機能の形成等、販路の拡大を支援する。
 
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(注4)コントラクター:牧草・飼料作物の栽培、収穫・調製、たい肥散布等の作業を畜産農家から受託する組織。
(注5)TMRセンター:粗飼料と濃厚飼料等を適切な割合で混合し、乳牛の養分要求量に合うように調製した飼料(TMR:Total Mixed Rations)を地域の酪農家に供給する組織。
(注6)TAC制度:漁獲量が多く経済的価値が高い魚種や資源状態が極めて悪く緊急に保存管理を行うべき魚種等について、あらかじめ漁獲量の上限をTAC(Total Allowable Catch:漁獲可能量)として定め、その範囲内に漁獲を収めるように漁業を管理する制度。
(注7)TAE制度:操業日数、隻数などの漁獲努力量の上限をTAE(Total Allowable Effort:漁獲努力可能量)として定め、その範囲内に漁獲努力量を収めるように漁業を管理する制度。
(注8)GAP(Good Agricultural Practice):農産物の安全確保等のため、農業者・産地自らが、作物や地域の状況を踏まえ、[1]農作業の点検項目を決定し、[2]点検項目に従い農作業を行い、記録し、[3]記録を点検・評価し、改善点を見出し、[4]次回の作付けに活用するという一連の「農業生産工程管理手法」。
(注9)HACCP:危害分析・重要管理点方式(Hazard Analysis and Critical Control Point system)。原料から製造工程にわたって発生の可能性のある危害を分析した上で、特に重点的に管理すべき点について監視し、その結果を記録に残すことによって危害の発生を未然に防止する手法。

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